プロジェクトを知る
Project

初めての創業をとなりで支える
居酒屋開店ストーリー

Profile

安江 濯Taku Yasue
企画部 企画ユニット(プロジェクト当時/中小企業部 創業・専門相談ユニット)

2008年入所。地域振興やまちづくりの提言策定などの経験を経て、中小企業部で個々の企業と相対する経営支援を3年経験。現在は企画部に所属。

※プロフィールは2024年取材時のものです。

Introduction

中小企業部の仕事は、日常的に事業者ひとりひとりと向き合う。創業に関する相談はとくに、創業者の不安も大きかったり、予想外のことが起きたりもする。相談員は日々どのように彼らに相対しているのか。そこには冷静かつ真摯に創業者を支える姿があった。

地元の名古屋で、居酒屋を始めたい

開店してまだ4か月、新栄にある「居酒屋うかい」は、まるで長年そこで営業してきたかのように馴染んでいる。どこか懐かしく居心地のいい店だ。店主の鵜飼氏は元バンドマンでドラマー、東京で音楽を志していた。なぜ転身して飲食店を開業することになったのか。

「バンドが活動休止となり、仲間と組んでキッチンカーやケータリングの仕事をしていました。ところがコロナの影響で多くのイベントが無くなったことで、仕事が激減。それをきっかけに、以前からやりたかった飲食店を、地元の名古屋に戻って始めたいと考えました」

飲食店をやっている知人に、「それなら地元の商工会議所に相談しては」と勧められ、名商の<創業相談窓口>に電話をかけた。それを受けたのが安江だった。

「東京からというのも意外でしたが、とても丁寧な人という印象でした。『名古屋にお越しになったらもちろんご相談に乗ります』と返事をしました」

一方の鵜飼氏が受けた印象は?

「どんな支援があるのかも知らなくて……、と率直にぶつけたところ、とても親切に『こういうことを相談してくれてもいいですよ』という感じで応えていただけたのが、ありがたかったですね」

東京に住んでいた鵜飼氏が名古屋に来た際に、初めて対面して打ち合わせをしたのが2021年。創業・専門相談ユニットでいくつもの創業を見てきたからこそ、他のケースとの比較や、陥りやすい落とし穴、そして創業者に必要な考え方を認識していた。そうした視点やアドバイスは、創業前の不安でいっぱいな鵜飼氏にとって、心強い支えとなった。

「物件、だめになりました」
「えっ、何があったんですか?!」

鵜飼氏が名古屋に戻り2年近くたち、創業の準備を進めるなかで問題が起きた。ほぼ決まっていた店舗物件が、とある事情で白紙に戻ってしまったのだ。新しい物件を探すよりほかない。入居物件が決まらないと、経営資金を借りる融資の申し込みは難しい。

しばらくして新たな物件候補が見つかったとき、相談を受けたという。

「早く物件を決めなければと焦っておられたと思います。でもどこか引っかかっているようにも感じました。『ご縁はいろいろあるので、慌てて次の物件を決めないほうが良いですよ、立地は大丈夫ですか?』などと投げかけました」

その言葉で鵜飼氏は自分の迷いに向き合い、冷静に判断したうえで、その物件は見送ることにした。

一方で融資の申し込みもできず、あまり進展していかない現実に、

「生活のために用意していた創業資金を切り崩すしかなく、どれくらいまで大丈夫なのか?と相談させていただいたこともあります」

と振り返る。安江は

「創業支援のご相談で多いのは、やはり資金のことです。融資を受けるときに立てた計画が、その通りに運ぶとは限りません。場合によっては1,000万円、2,000万円という借金を負うわけですから、その後どうやって生活するのかも大切です。がむしゃらに働けばいいと思うかもしれませんが、健康を害するかもしれませんし、サラリーマンと違って保証もありません。融資を受けるという目的に流されるのではなく、その前提を踏まえて考えなくてはならないのです」

と力をこめる。

創業者にとって耳の痛い話もする真摯さがうかがえた。

事業計画づくりをはじめ、
さまざまな局面で伴走支援

それから1年経っても物件が決まらなかったため、すでに完成していた事業計画をもう一度練り直すことに。事業計画は、融資の申込みにも重要であり、融資の審査を通るには過大な計画を立てるのではなく、どれだけ論理的に根拠のある数字を示せるかが求められる。

「事業計画を安江さんと作っていくなかで、正直こういう内容になると思っていなかったということがよくありました。事業計画を実現できる根拠を一緒に探してくれたのです。たとえば、飲食店の経験があることだけでなく、自分では気が付いていなかった経歴や経験をアピールするようにアドバイスいただきました。そうして作った事業計画で、実際に銀行の融資担当の方からの良い反応を引き出せたんです」

紆余曲折あり無事に開店した「居酒屋うかい」は、目標を上回る売上を実現している。鵜飼氏は安江の提案のもと、お店の立地エリアのマーケティングレポートを提供するサービスを利用。周辺の飲食店との連携や、メニューを考えるのに生かしたという。

「名商はアドバイスを提供しますが、決めるのはあくまで創業者です。そこに名商の相談員が寄り添い、伴走支援をさせていただきます。どうしても経営は浮き沈みがあります。落ち込んだ時は早めに来ていただいて、逆に好調なときもご提案できることがあるので、ご連絡していただけると嬉しいです。やはり、密にお付き合いすると思い入れが出てきますね」

いまや鵜飼氏にとって、安江は困ったときには真っ先に顔が浮かぶ存在となっているという。

「本当に親身になって考えてくれます。仕事とは関係のないこと、プライベートの知人に話すようなことまで相談していますね」

一方の安江も、

「この店はマグロもいいんですよ。鵜飼さんのお知り合いから仕入れているんですよね?」

とさり気なく推す。

良い距離感を保ちながら、ふたつの車輪で経営を前進させている。

Another project

アナザープロジェクト(安江)

伏見地区や名古屋三川などまちづくりの支援(商務交流部)

安江は「当時創り上げたまちづくりの提言が現実のものになるのは、自分が60歳とかになったころかも」と口にする。まちづくりの仕事はそれほどに、長い時間軸で捉えてもおかしくないものだ。具体的には、伏見地区のまちづくりや、「名古屋三川」と銘打った名古屋を流れる3つの水辺のあり方の変革、そして名古屋港周辺の整備について提言をまとめた。民間のディベロッパーなどと意見をすり合わせ、地域のプラスになるには何が必要か、ビジョンを描き、制度や規制を司る行政に働きかけた。

その仕事は自分の手を離れた後も、誰かが引き継いで5年後・10年後に人々の生活を変えたり、地域の魅力になっているかもしれない。

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